吉川 左紀子 YOSHIKAWA Sakiko
京都大学こころの未来研究センター 特定教授
講義概要
現代社会では、対面ではなく携帯で、メールで…と、画面でテキストを読むひと時がコミュニケーションの時間になりつつある。一方、他者の意図や感情を理解し共感するうえで、言葉やテキスト以外の情報の重要性が、最近の認知科学・認知神経科学の研究から明らかにされている。本講義では、ミラーニューロンシステムなど共感に関する認知神経科学の知見、および熟練のカウンセラーの対話映像分析、多感覚コミュニケーションを用いたケア技法の実証研究などを手がかりに、表情を見る、反復する、という「効率的なコミュニケーション」とは相入れない要素のもつ意味や機能について考察する。
世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか
私たちは、正確で、迅速で、無駄がないことが良いコミュニケーションであると考えがちである。IT技術の急速な進歩によって、こうした傾向はさらに強くなっているように思われる。一方、思いや気持ちを伝えることが困難な人たちとのコミュニケーションを支える専門家の技術とその分析からは、それとは異なるコミュニケーションの重要性が明らかになっている。人間にとって自然で、心地よいコミュニケーションの本来の姿とはどのようなものなのか。最近の認知科学、認知神経科学の知見や、優れたコミュニケーション技法の分析を手掛かりにして、この問いについて考えてみたい。
講師プロフィール
経歴
1954年北海道生まれ。1973年京都大学文学部入学、1975年教育学部に転入学。1977年京都大学教育学部卒業。1979年京都大学大学院教育学研究科教育科学専攻修士課程修了、1982年京都大学大学院教育学研究科教育科学専攻博士課程満期退学。博士(教育学)京都大学。1982年追手門学院大学文学部心理学科助手、1985年同講師、1989年同助教授。1989年~1990年英国ノッティンガム大学客員研究員。1997年京都大学教育学部助教授。2002年京都大学大学院教育学研究科教授。2007年こころの未来研究センター教授、センター長。2018年3月までセンター長を務めた。大学設置・学校法人審議会専門委員、研究成果展開事業COIプログラム構造化チーム委員、京都市社会福祉審議会委員、京都市社会教育委員。専門分野は認知心理学・認知科学で、顔や表情認識などコミュニケーションの基礎過程に関する研究を行ってきた。
著書
『こころの謎・Kokoroの未来』京都大学学術出版会(2009年 共著)、『よく分かる認知科学』ミネルヴァ書房(2010年 共編著)、『こころ学の挑戦』創元社(2016年 共編著)など。