矢野 誠 YANO Makoto
京都大学経済研究所特任教授
京都大学 名誉教授
講義概要
バブル崩壊後、我が国の経済は長期停滞に陥り、30年以上が経過しました。最先端の科学技術を誇る我が国がそれを脱却できないのは、なぜでしょうか。本講義では、社会科学的素養が発展・成長ためのエコシステムの形成には不可欠という視点にたって、この問題を考えます。もともとエコシステムというのは、生命とその生存・進化をつかさどるシステムの総体のことです。それが適切にデザインされて、初めて、生命の維持・増殖が可能です。1990年代のアメリカのITビジネス界において、経済もビジネスも一つのエコシステムに支えられるという考え方がうまれました。この見方にそって、社会科学的素養とは何か、我が国の組織や経済の発展・成長を支えるエコシステムとはどんなものか、といった問題を考えます。
世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか
本講義の根底には,「経済の健全な発展・成長を支えるためには,高質な市場が不可欠」という経済理論(市場の質理論)があります。わたくしは、この理論を提唱し、高質な市場を支えるエコシステムのあり方を研究してきました。エコシステムは一つの目的に沿ったシステムの総体です。したがって、システムのパーツの間に固定的な垣根が存在しては、適切なエコシステムは形成できません。停滞からの脱却には、自分が属する組織や経済・社会のどこに垣根があるのかを正確に知り、社会のニーズに応えられるエコシステムを再構築する必要があります。ニーズの解明、エコシステムのデザインに欠かせないのが、本講義でご紹介する社会科学的素養です。
講師プロフィール
経歴
日本学士院会員(2021年より)、京都大学経済研究所特任教授、京都大学名誉教授(2018年より)、上智大学特任教授(2019年より)。東京大学経済学部卒(1977年)。ロチェスター大学経済学大学院卒業後(Ph.D、1981年)、コーネル大学助教授、ラトガース大学助教授、横浜国立大学助教授・教授、南カリフォルニア大学客員准教授、慶應義塾大学教授、京都大学経済研究所教授、経済産業研究所所長・理事長などを歴任。