土佐 尚子 TOSA Naoko
京都大学大学院総合生存学館(思修館)
アートイノベーション産学共同講座 教授
講義概要
大切なものは、目に見えない。
現代社会はグローバルになり、ますます複雑化多様化してきている中で、政治、経済、言語と文化を乗り越えて、人と人をつなぐもの、それがアートである。アート力がつけば、今まで見ていなかった大切なものが、見えてくる。アートの先に科学、技術があり、多くのイノベーションがそうであったように、ほとんど誰から理解されないところに、本質がある。
この講義では、アートとテクノロジーで構成されている現代美術が、どのように新しい価値や体験を生み出し、それが、新しい技術や、社会に貢献されていくのか、様々な作品を紹介すると共に、体験をしてもらう。
特に日本文化のコンピューティングに注目し、ほとんどコンピュー ティングの対象となって来なかった(1)日本の移ろいやすい気象・ 自然風土「もののあわれ」などの無常思想や「わび、さび」などの 美意識(2)日本文化とアジア文化の関係(3)神仏習合を根底とした 文化構造(4)和歌、俳諧や能などの日本語独特の特性(5)日本の意匠を取り上げる。このような日本美のルーツをテーマとした現代の美術が、国際的に発信することで、クールジャパンに見られるような新しい文化交流のあり方も講義する。
講師プロフィール
経歴
京都大学では、AI時代に新しい価値を生み出すアート・イノベーションとアート&テクノロジーの教育に従事している。2016年には、アートな京大を目指して山極総長の肝いりで作られた京大アートサイエンスユニット長を務めた。東京大学大学院工学系研究科にて芸術とテクノロジー研究で工学博士号を取得。感情・意識・物語・民族性といった人間が歴史の中で行為や文法などの形で蓄えてきた文化を、インタラクティブに表現し、心で感じるインターフェース「カルチュラル・コンピューティング」を提唱し、作品制作、研究を行う。
「ACM SIGGRAPH, ARS ELECTRONICA」といった代表的な芸術とテクノロジーの国際会議にて、講演と共に作品発表。ニューヨーク近代美術館、メトロポリタン美術館等の企画展に招待展示。作品はニューヨーク近代美術館、アメリカンフィルムアソシエイション、国立国際美術館、O美術館、富山県立近代美術館、名古屋市立美術館、高松市立美術館で収蔵されている。作品は、感情を読んで対話するコンピュータ「ニューロベイビー」、物語るコンピュータ「インタラクティブポエム」「インタラクティブ漫才」、無意識のコミュニケーションを可視化した「無意識の流れ」、コンピュータによる山水禅「ZEN Computer」、場の空気を読むコンピュータ「i.plot」、ネットからテキストを連想検索して俳句を作るコンピュータ「Hitch Haiku」がある。
1996年IEEEマルチメディア国際会議'96最優秀論文賞。1997年芸術と科学を融合した研究に贈られるロレアル賞大賞受賞。1999年度文化庁芸術家在外派遣特別研修員フェローシップ。2000年、アルスエレクトロニカインタラクティブアート部門にて受賞。2004年ユネスコ主催デジタル文化遺産コンペで2位受賞。2012年韓国の麗水万博で250m x 30mのスクリーンに龍を泳がせ、万博委員会から表彰された。2015年京都府琳派400年事業として「土佐琳派」プロジェクションマッピングを京都国立博物館で実施し、4日間で約2万人の人々を集めた。最近の仕事は、2016年度文化庁長官の任命により文化交流使を務め、NY Times Squareの全ディスプレイに作品を上映するイベントを行った。
1989年~1994年武蔵野美術大学講師。1995年~2001年ATR知能映像通信研究所主任研究員。1997年~2001年神戸大学客員助教授。2002~2003年九州大学芸術工学部客員教授。2001~2004年JSTさきがけ「相互作用と賢さ」領域研究に従事。2002年~2004年マサチューセッツ工科大学建築学部Center for Advanced Visual Studiesフェローアーティストを経て、現職。企業との受託研究はフランステレコムR&D、タイトー株式会社、NICT、ニコン株式会社などがある。学会活動は、2001年芸術科学会設立メンバー、副会長を経て現在顧問。2006年からIFIP TC16 Entertainment Computing Art & Entertainment Chair。
著書
『カルチュラル・コンピューティング 文化・無意識・ソフトウェアの創造力』NTT出版(2009)、『TOSARIMPA』淡交社(2015)、『Cross-Cultural Computing: An Artist's Journey』Springer(2016)