「グリーンケミストリー」の概念と実践 | 京都大学ELP
京都大学エグゼクティブリーダーシッププログラム

「グリーンケミストリー」の概念と実践

持続可能な「モノづくり」を指向した化学製品の分子設計と化学合成について

竹本 佳司 TAKEMOTO Yoshiji
京都大学大学院薬学研究科 教授

講義概要

我々は毎日多くの化学物質に囲まれ、それら化成品を利用して生活している。逆の見方をすれば、人工的に合成された化学物質がなくなれば、衣食住に窮し生存が危うくなるということを意味する。薬学が焦点を当てている医薬品や農薬も化学物質の1つであり、機能性材料や衣料品材料と同様に化学合成で製造されている。もし食料・衣料・建築・医薬品に必要とする化学物質を世界中の人々のニーズに対応して量的供給が可能になれば、飢餓や疾病などに関わる問題の少なくともある1面は解決できると思われる。しかし、それらの製造に必要な原材料とエネルギーを持続可能な方法で確保し、さらにその製造工程で排出される廃棄物を再循環的に処理することは現時点では至難の業であり、多くの克服すべき課題が存在している。それらの問題点について、科学(化学)技術の側面から議論し、どのような解決策が考えられ、どのような研究が模索されているかを紹介したい。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

2001年、2005年、2010年のノーベル化学賞は、いずれも革新的な“金属触媒”(化学反応を行う時に重要な分子)の発見とそれらを用いた新しい合成反応の開発に対して授与された、その理由は、医薬品や機能性材料の製造に対する革新的発展に貢献したことである。このように金属触媒はまだまだ未知の部分が多くさらに発展する分野ではあるが、一方で反応に使用する金属元素(特に遷移金属などの稀少金属)の多くが外国からの輸入に依存しており、また高価であり、時として毒性を有するなど深刻な問題も指摘されている。特に、医薬品の製造現場では金属の混入は極微量でも許されない。そこで我々は、発想を逆転させ金属を含まない触媒(有機触媒)に着目し、金属原子の助けを借りずに同等以上の触媒機能を発揮する安価で取扱が容易な新型触媒を開発する研究を行っている。この目標は容易ではないが、人間にも自然にも安全・安心な方法で、医薬品を安価に大量合成できる「モノづくり」の新技術を確立することで、クリーンな社会の維持と人類の健康と福祉に貢献できる。

講師プロフィール

経歴

1983年、大阪大学薬学部製薬化学科卒業。1985年、大阪大学大学院薬学研究科薬品化学専攻修士課程修了。1988年、大阪大学大学院薬学研究科薬品化学専攻博士課程修了。1988年、米国フロリダ州立大学化学科 博士研究員。1989年、(財)相模中央化学研究所博士研究員。1990年、大阪大学薬学部 助手。1998年、京都大学大学院薬学研究科薬品分子化学分野助教授。2000年、京都大学大学院薬学研究科薬品分子化学分野教授。

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