岡 真理 OKA Mari
早稲田大学文学学術院 教授
講義概要
2007年に封鎖され「世界最大の野外監獄」と呼ばれるパレスチナのガザ地区は、昨年(2023年)10月7日以降、イスラエルによるすさまじいジェノサイド攻撃にさらされ、今や21世紀の絶滅収容所と化しています。その破壊と殺戮の規模を見れば、それが、イスラエルの言う「ハマースの殲滅」などのためではなく、ガザの人々とガザにおけるパレスチナ人の共同体そのものの壊滅を企図していることが分かります。なぜ、ガザは、こうした破壊と殺戮に繰り返し見舞われるのか。20世紀のホロコーストを経験したこの世界で、何が、このような大量殺戮を可能としているのか。国際政治の観点からではなく、人文学的視点から考えます。
世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか
イスラエルによるガザのジェノサイドは、日本をはじめとする「西側」諸国では、10月7日のハマースによるテロ攻撃を起点とする、イスラエルの自衛の戦争と位置付けられています。しかし、そのような歴史性を欠いた解釈に立脚している限り、私たちはこの暴力の根源とは何かを正しく知ることができず、問題を真に解決することもできません。ガザとは何か、パレスチナとは何か、イスラエルとは何かを正しく知ることを通して、私たちは、日本社会のあり方、現代世界のあり方そのものを批判的に問い直し、この地上のすべての人々が恐怖と欠乏を免れ、平和のうちに生きることができる、そのような世界の実現に向けて努力することにこそ、私たち一人ひとりに課せられた人間としての責務があることに気づくでしょう。
講師プロフィール
経歴
専門は現代アラブ文学、パレスチナ問題。東京外国大学アラビア語科卒業、同大学院修士課程修了。エジプト・カイロ大学留学、在モロッコ日本国大使館専門調査員、京都大学人間・環境学研究科教授等を経て現職(京都大学名誉教授)。学生時代に、パレスチナ人作家ガッサーン・カナファーニーの小説作品を通して、パレスチナ問題とアラブ文学に出会い、以来、現代世界を生きる人間の普遍的思想課題としてパレスチナ問題を考究している。
著書
著書に、『記憶/物語』岩波書店(2000年)、『彼女の「正しい」名前とは何か』青土社(2019年)、『棗椰子の木陰で――第三世界フェミニズムと文学の力』青土社(2022年)、『アラブ、祈りとしての文学』みすず書房(2015年)、『ガザに地下鉄が走る日』みすず書房 (2018年)、『ガザとは何か』大和書房(2023年)ほか。訳書に、サラ・ロイ『ホロコーストからガザへ』共訳、青土社(2024年)、ターハル・ベンジェッルーン『火によって』以文社(2012年)ほか。