西平 直 NISHIHIRA Tadashi
上智大学グリーフケア研究所 特任教授
京都大学 名誉教授
講義概要
無心。本当はよくわからないのだが、なぜか皆、深い知恵を予感する。ではそこに何が潜んでいるのか。例えば、無心から生じる「おのずからの動き」。意図的に作り出すのではない。恩寵のようにやってくる。あるいは、型という知恵。型の稽古は「ハプニングに対応する身体」を育てる。そうした身心を可能にする土台を育てる。もしくは「身心一如」「離見の見」「修証一等」といった謎めいた言葉、そこに込められた先人たちの「しなやかな」教え。自然体、暗黙知、脱学習、アート、フロー、成就。「身をもって学ぶ(わざを身に付ける)」プロセスと、そこに秘められた豊かな知恵について学ぶ機会とする。
世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか
稽古の思想は「しなやか」である。稽古は「わざ」が「わざとらしく」なることを嫌う。稽古は「上手くなろうとする」ことであると同時に「上手くなろうとしなくなる」ことである。「型」や「無心」の思想は逆説に満ちている。一筋縄では進まない。よじれ・もつれ・反転する。その秘められた「しなやかさ」を学ぶ。「しなやかさ」が即興を生み、創発の土台となる。新しい状況にそのつど対応してゆく身心の基礎・基本・土台。予測不能な時代であればこそ、伝統の知恵に立ち返り、そこから跳ね返される仕方で、自分なりに考え直す機会としたい。
講師プロフィール
経歴
1957年、甲府市生まれ。信州大学、東京都立大学、東京大学にてドイツ哲学と教育哲学を学び、1990年から立教大学文学部専任講師・助教授、1997年から東京大学教育学研究科助教授・准教授を経て、2007年から京都大学教育学研究科教授。専門は、教育人間学、死生学、哲学。思想研究による「人の一生(ライフサイクル)」研究を志し、宗教心理学・東洋哲学における「宗教性(スピリチュアリティ)」研究を継続中。近年は毎年ブータンに通う。
著書
無心や稽古に関して、『世阿弥の稽古哲学』東京大学出版会(2009年)、『無心のダイナミズム』岩波現代全書(2014年)、『無心の対話‐精神分析フィロソフィア』創元社(2017年 共著)など。その他、『エリクソンの人間学』東京大学出版会(1993年)、『魂のライフサイクル-ユング・ウィルバー・シュタイナー』東京大学出版会(1997年)、『教育人間学のために』東京大学出版会(2005年)、『生涯発達とライフサイクル』東京大学出版会(2014年 共著)、『誕生のインファンティア-生まれてきた不思議・死んでゆく不思議・生まれてこなかった不思議』みすず書房(2015年)、『ライフサイクルの哲学』東京大学出版会(2019年)、『井筒俊彦と二重の見』、『西田幾多郎と双面性』共に、ぷねうま舍(2021年)、『内的経験 こころの記憶に語らせて』みすず書房(2023年)など。