タイから考えるケアと老い | 京都大学ELP
京都大学エグゼクティブリーダーシッププログラム

タイから考えるケアと老い

高齢化社会に生きる個とつながりを他文化に学ぶ

速水 洋子 HAYAMI Yoko
京都大学東南アジア地域研究研究所 教授

講義概要

東南アジア諸国は、介護者などの送り出し元と思われがちだが、タイやシンガポール等一部の国々では既に高齢化が急速に進んでいる。東南アジアは、国家の制度や公的サービスが脆弱な部分を、家族やコミュニティを中心とした社会資本や相互扶助的なサポートが補っていると言われてきた。今でも老親のケアの担い手は基本的に子であるべきという規範は強い。しかし、少子高齢化とともに実際には家族では担いきれなくなっており、様々な綻びがみられるなかで、新しい工夫も始まっている。
社会規範としても実態としてもケアの実践が変わりつつあるなかで、老いはどの様に体験されているのだろうか。そこには、高齢先進国日本が学ぶべきことがあるだろうか。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

日本は世界でも最も高齢人口比率の高い高齢先進国であり、タイで制度政策に関わる人々は日本の介護保険制度に学ぶべきであると一様に述べる。しかし学ぶべきは彼らの側だけだろうか。先行した経験に基づく知恵を、後に続く国々と共有することはできるとしても、先を急ぐ中で見過ごしてきた道がないだろうか。また彼らが後から高齢化を体験するからといって我々と同じ道筋をたどるとは限らない。道は無数にあるだろう。だとすれば日本が、私たちが、社会の在り方や人の生き方についてタイから学ぶこともたくさんあるのではないか?私が専攻する文化人類学や地域研究では、他文化について研究し、学ぶことは自分自身の日常や生き方、そして自分を取り巻く社会を顧みることを抜きにしてはありえない。特に今、閉塞する日本社会がこれからどのように歩んでいくか、どの様に老いを生きるのか、他社会から学べることは限りなく多い。

講師プロフィール

経歴

国際基督教大学教養学部卒業。ブラウン大学大学院(米)人類学博士課程修了(1992年PhD)。1997年より京都大学東南アジア研究センター(当時)に文部教官助手として着任しその後、東南アジア研究所准教授、教授、そして組織統合等を経て現在に至る。研究関心は、タイの少数民族における宗教と社会、ジェンダー、家族に始まり、その後ミャンマーでも調査を実施。ここ十年ほどタイや東南アジア社会におけるケアと老いに関心がある。

著書

『差異とつながりの民族誌 北タイ山地カレン社会の民族とジェンダー』世界思想社(2009);Between Hills and Plains: Power and Practice in Socio-Religious Dynamics among Karen. Kyoto University Press and Trans Pacific Press(2004年).編著に『東南アジアにおけるケアの潜在力―生のつながりの実践』京大出版会(2019年);『人間圏の再構築:熱帯社会の潜在力』京都大学学術出版会(2012年共編); The Family in Flux in Southeast Asia: Institution, Ideology and Practice, Silkworm Press and Kyoto University Press(2012年共編); Gender and Modernity in Asia and the Pacific. Kyoto University Press & Trans-Pacific Press(2003年共編)など。

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