講義の概要と目的
科学技術研究開発とその成果の社会実装は、私たちに様々な恩恵を与えてきたと同時に、生活や社会のあり方を大きく変容させ、また時として深刻な破壊的影響をもたらしてきました。そのような中、科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)の同定と対応策の検討、さらには、責任ある研究とイノベーション(RRI)を推進するための科学技術ガバナンス構築の重要性が増しています。講義では、JST/RISTEXが推進しているELSI/RRIに関する包括的研究開発プログラムの活動紹介を通して、人・社会と科学技術との関係を再考し、両者の間に調和的な関係を構築してくために必要な論点を検討します。
この研究が世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか
現在の科学技術開発は、社会実装までのスピードが非常に早く、私たちに与える影響も不確実かつ多義的で、ネガティブなものも予測されます。しかし、大きな社会課題が山積している現状において、科学技術によるイノベーションは不可欠であり、その開発実装がもたらすELSIを探りながら未来を予見し、取りえる選択肢を検討していかねばなりません。ELSI/RRIに関する研究や議論は、科学技術がもたらす諸問題を明らかにするだけではなく、「どのような社会に住みたいか、どのような社会を次世代に残したいか」を問いかけ、能動的に「より善い(ましな)」選択を行うための基盤となることで、世の中にインパクトを与えます。
講師プロフィール
経歴
京都府生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程中退、Department of Psychology, University of California, Los Angeles卒(Ph.D.)。 名古屋大学大学院環境学研究科助教授等を経て、現在、東京大学大学院人文社会系研究科教授。専門は社会心理学、特に対人認知、道徳的判断、科学技術の社会受容。主な著書に「なぜ心を読みすぎるのか みきわめと対人関係の心理学」(東大出版会、2017年。日本社会心理学会出版賞受賞)、「<概念工学>宣言! 哲学×心理学による知のエンジニアリング」(名古屋大学出版会、2019年:戸田山和久との共編著書)、「社会的認知-現状と展望」(ナカニシヤ出版、2020年、編著書)。2020年よりJST・RISTEXにおける「科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題 (ELSI) への包括的実践研究開発プログラム」総括をつとめる。