ヒトの脳と心(人間らしさ)の 創発・発達 | 京都大学ELP
京都大学エグゼクティブリーダーシッププログラム

ヒトの脳と心(人間らしさ)の 創発・発達

次世代人類が生きる環境、 社会について考える

明和 政子 MYOWA Masako
京都大学大学院教育学研究科 教授

講義概要

ヒトを含む生物は、身体を持っています。身体には物理的制約があります。身体が環境に能動的にふるまう過程で、膨大な量の情報はその制約に基づきふるいにかけられます。情報は、身体をもつその個体にとって「意味あるもの」が選択、構造化されることで、ヒト特有の形
質(脳や心)は創発・発達していきます。さらに、個の発達は周囲の社会、文化の形成に影響を与え、それが次世代の形質を創発、発達させる制約そのものとなります。つまり、生物としてのヒトの脳と心が創発、発達する原理、機序を十分理解しないまま、環境や社会を変革
することは、ホモ・サピエンスの未来を左右することでもあるのです。「ヒトとは何か」という基本的理解を軸に、次世代人類が育つ環境、社会について考えてみましょう。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

日本では、サイバー空間とフィジカルの空間を高度に融合させたSociety 5.0が目指されています。新型コロナウイルス感染症の拡大が、この流れを一気に加速させました。Society 5.0では、利便性の向上、省力化(無駄のなさ)に価値がおかれています。しかし、これは完成した脳をもつ大人の脳と心の働きを前提にしているにすぎません。哺乳類動物の一種であるヒトは、他個体との「密・接触」を基本とする環境に適応して進化してきた生物です。大人にとっては一見無駄にもみえる環境、社会で様々な経験を積み重ねながら、ヒトの脳と心(人間らしさ)はゆっくり育まれていくのです。今、私たちが生きる社会、環境は未曾有のスケールで変化しています。今後、どのような未来を次世代人類に託していくべきなのか。皆さんとともに議論したいと思います。

講師プロフィール

経歴

京都大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。京都大学霊長類研究所研究員、京都大学大学院教育学研究科准教授などを経て、現在同教授。日本学術会議会員、文部科学省科学技術・学術審議会委員、こども家庭庁こども家庭審議会臨時委員。ヒトとヒト以外の霊長類を胎児期から比較し、ヒト特有の脳と心の発達とその進化的基盤を明らかにする「比較認知発達科学」を世界にさきがけて開拓した。近著に『マスク社会が危ない―子どもの発達に「毎日マスク」はどう影響するか?(宝島新書)』『ヒトの発達の謎を解く―胎児期から人類の未来まで(ちくま新書)』『まねが育むヒトの心(岩波ジュニア新書)』など。NHKスペシャル『ママたちが非常事態!? 最新科学で迫るニッポンの子育て1・2(2016年放送)』『ニッポンの家族が非常事態!? わが子がキレる本当のワケ(2017年放送)』『ジェンダーサイエンス 男X女 性差の真実(2021年放送)等の監修・出演により、現代社会に生きるヒトが抱える問題を最新科学から理解する活動にも力を注いでいる。

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